恋が彼等を連れ去った

「この人の詩集、好きなんだよね」

そう言って、彼女は私に一冊の詩集を差し出した。私は彼女が、学校では絶対話さないであろう秘密を許されたのが何だかこそばゆくて、照れながら作者の名前を指で撫でた。

「銀色夏生? 初めて読む」

「言葉が綺麗で好きなんだ、間違って同じものを買っちゃったからあげる」

空白の多い文庫本に、モノクロの写真と短い言葉の羅列。本の虫だった私には物足りない文章量だった。

当時、詩を読むことはなかった。詩人に対して浮世離れしていて何処か気取っていて近寄りがたいイメージがあったのだ。美しい言葉を紡ぐ彼らは希死念慮に振り回され地を這うように生きている私とは違うと思っていた。

世界の美しいところだけを見ている詩人が羨ましくて、嫌いだった。

今思うと私は何も知らない、自分だけが不幸だと思っていた幼すぎた子どもだった。親から与えられるであろう愛情を受け取れず、心の空白を物語で埋めて何とか”人間”として振る舞うことばかりを考えていた。

それなのに、大好きな彼女が言うから「ありがとう、読んでみるね」と素直に受け取った。

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