深海

深い海と書いて深海と読む。シンカイではなくてフカミ。その深海が飛び降りたと、ついさっき知った。

ただ命に別状はなかったらしい。

死に損なった深海に私は失望した。

友人でも家族や恋人でもない、赤の他人である私と深海の関係に名前をつけるのなら、私が深海の一ファンである以上に特別な関係性はなかった。

私の存在を深海はもちろん知らない。

知らない人間に死んで欲しかったと思われている深海が可哀想で笑える。深海を見る度に、歪みきった自意識を自覚せざるを得ない。自分はこんなにも最低な人間だったのかと、深海を見る度に自己嫌悪に襲われた。

それなのに深海のことを追いかけるのをやめることは出来なかった。

『君が怖くないように、先に逝ってるね』

深海のSNSアカウントのプロフィールにはこの一文だけ書かれていた。簡素すぎるが深海のことを表すにはそれで十分だった。

正方形に切り取られた深海はまるで芸術品のように美しすぎたのだ。

綺麗で冷たくて誰も寄せ付けない雰囲気なのに、幼子のように無邪気に微笑んだりもするのだ。深海を見ていると、世の中の杓子で計れるものに何の意味の無いのだと言われている気分になる。

深海は懸命に杓子定規をなぞらえてきた私の世界をいとも簡単にぶち壊したのだ。

希死念慮に彩られた詩と今にも死んでしまいそうな不健康な少女の自撮り。死と隣り合わせの人間は儚くて美しいらしく、深海には信者のようなファンが一定数存在していた。

私もその一人だ。リプライを送ったことはないが「ハート」は沢山送った。貴方は私のお気に入りだと、まるで脊髄反射のように何度も何度も送った。

雛鳥が刷り込みで覚えるように、ただ私のアカウントは深海を追っていた。私のタイムラインは深海のリツイートで埋め尽くされている。

ああ、気持ち悪い。深海を追いかけることしか生きがいのない私なんか、気持ち悪い。

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