深海

 □

病院の非常階段を駆け上がる。

足音が喧しく響く。

息切れしながら屋上に辿り着いた。

柵の隙間から下界を眺めた。

ちっぽけな人間たちが平然と息をして歩いているのが見えた。

ああ、こいつらはきっと私が飛び降りてもすぐに忘れて明日も生きるんだろうな。

それともこんな悲しい、いや頭のおかしい迷惑な自殺に遭遇してしまい恋人や家族に慰められたりするのだろうか。

いいなあ。私はずっと独りなのに。

羨ましいなあ。私には何にもないのに。

涙なんてとっくに枯れてる。

寂しいって、生きづらいって、ここにいるよって、たくさん叫んでも誰にも見つけて貰えなかった。

泣いたって世界は変わらないことを、私は知っている。

そうでない人もいて、それが羨ましくて羨ましく思う自分も惨めでいつも死にたかった。

柵を越えて大きく息を吸った。

あと一歩で死ねる。

最初からこうすればよかったのだ。

私はやっと、有効な世界への解を見つけられた気がした。

飛び降りようとした瞬間、スマートフォンがなった。

深海がSNSを更新したアラートだった。

『死ななくてごめんね』

病室で見た真っ白な深海が、死んだような顔で正方形の中を収まっていた。

「……本当だよ、なんで死ななかったの?」

枯れたと思った涙が溢れて、しゃがみこんだ。

深海は私のことなんて知らないから、この投稿は私に宛てたわけじゃない。

私の葛藤も苦しみも辛さも深海は何も知らない。

それなのに、この偶然に救われてしまった気がした。

「あーあ……」

見上げた太陽に目が眩んだ。

 誰も私を見ていない。

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