「そこになければ無いですね」

疲れていた。

ひとりの社会人として、生計を維持するための労働。昔と比べたらそれほど環境が悪いところで働いているわけではないのに、気怠い身体を引きずりながら帰っていた。

一度壊れた身体は元には戻らないから、本当に健康というものは尊いものだったと失くしてから気付く。一昔前のJ-POPのようなノスタルジーを感じていて何だか格好が悪い。

「そこになければ無いですね」でお馴染みの某百円ショップの店員のように健康もそこになければ無いのだと思うので、これ以上身体を壊さない様にケアを怠らず、身体を鍛えて、自然治癒できないなら病院へ通い、出来るだけ毎日をご機嫌に過ごしたいものですね。なんて、ため息がでるくらい退屈でかけがえのない日常なんでしょう。気持ち悪くて吐きそうだ。

疲れている時の世界は曇っている。天気ではなくて、私の見えている世界が曇りガラスを通したように見えるから不快指数が上がっていく。

「健康的な朝だな、こんな時は君の愛してるがききたいや~」なんて、あいみょんを聴きながらぼんやり歩いていて、仕事で頼まれていた買い物をするために100円ショップを彷徨った。私も君の愛してるが聞きたいや~なんて思いながらもそんな相手はいないのでひたすらに孤独でした。

100円ショップの怖いところは欲しい商品を探す間に、余計な買い物もしてしまうし基本混んでいるから会計まで時間がかかるところだ。不平不満ばかり書いてしまって申し訳ない。その日も無駄遣いの誘惑を耐えて買い物を終えて隣にある本屋を覗いてしまった。

目の前には欲しかった本や、伊坂幸太郎さんが作家生活20年の特集をしている雑誌や、伊坂幸太郎さんの新刊があった。買うか悩んで本屋を何周もしてしまった。

些細なきっかけですぐに心がざわついてしまう。ざわついた心はまるで手負いの獣のように弱ってしまっているから、「お前らなんかに分かるわけないだろ!」と叫びたい衝動を抑えて真人間のフリをして本屋を徘徊する自分が、まるで何かに憑りつかれた恐ろしい化け物のように思える。

誰にも理解されない気になって悲しくなり、怖くて叫びたくて、誰かの視線も声も音も怖くてイヤホンで音を遮断するしかなくなる。

疲れている時は早く帰ればいいのに、なにかを取り戻したいように道草をしてしまう。昔からの悪い癖だ。傷ついた分を何かで補いたくて、本当はそんなものなんて存在しないことをいい加減に理解して早くお風呂に入って寝ることが一番の解決なのに。

「なんだかイライラするんです。何かが怖くて叫びたくて泣きだしたくなって、そんな惨めな自分が嫌なんです。何か、そんな自分を慰めることができるものってありませんか?」

死にそうな顔をしたイマジナリー店員は、はあ……とため息を吐いてお決まりの台詞を言った。

「そこになければ無いですね」

「……分かりました、ありがとうございます」

お礼をいって、私は伊坂幸太郎さんの新刊「逆ソクラテス」と「ダ・ヴィンチ」と江戸川治さんの「マザー」という漫画を買って帰った。疲れている時は活字が読めないのでまだどれも読めていません。

ナカタサキ

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