白桃。

白桃の季節がきた。

スーパーで丁重に陳列されていて、柔らかく触れたところから痛んでいってしまう繊細さを兼ね備えている瑞々しい桃色の球体。

少しだけお高い、一人暮らしには高級な果物。出始めは高くて買えないが、旬の真っ只中には少しだけお安くなる桃色の球体。(でも”桃”社比、若干安くなっているだけで高級には変わりない)

ニュージーランド産ゴールドキウイは1個100円くらいで買えるのに、私の愛する桃色の球体は山形県産で1個250円。

500円で5個買えるゴールドキウイと比べて桃色の球体はたったの2個しか買えない。足元を見ているな、桃色の球体。いくら瑞々しい果肉を纏っているからって、王族みたいに鎮座していないでほしい。白桃の王女様をお迎えするために、エコバッグを持ってきたのに専用の有料袋を買いました。

「私って、とってもか弱いの。ひとつも傷をつけないで運んでちょうだい」

自分のか弱さと価値を理解している白桃の王女様は、長い睫毛を揺らして私を見る。本当は、不安なのだろう。触れられるだけで傷んでしまう可愛くて美味しい王女さま。でもひとつだけ勘違いしている。

「私は悪い人なの」

何も知らないような顔をして、純真な王女様は差し出されるままに私の手を取った。王女様はこの季節を巡るのは初めてだから、すぐ悪い人に騙されちゃうのだろう。

「見てください、王女様。ここが外の世界です。沢山の人が生活をしています。この中には貴女のことを手に取ってくれる人は多くはありませんよ」

「あらどうして?貴女は随分意地悪なことを言うのね」

意地悪といいつつも、王女様は何も気にしていないかのように外の世界を見ている。

「ここは祖国とは全然違う。土の匂いもしないし、緑が少ないわね。ここで私は食べられてしまうのね」

「そうですよ、王女様。私は貴女に会える日を心待ちにしていました」

「そんなに私を食べたかったの?」

無邪気な王女様にたじろいでしまう。私が王女様のことを食べてしまうのに、恐怖はないのだろうか。それとも王族は己に降りかかる運命を一心に受け入れる術を心得ているのだろうか。

「私を食べるときは残してはダメよ。種は捨てて。間違ってもこんな国で育てようとしないでね。ここは土の匂いもしないし風は変。緑も無い、こんな寂しいところで育つ子どもは不幸よ」

王女様は桃色の球体に相応しい、ベルベットのような柔らかい頬をしている。懇願する王女様に、精一杯慈しみを浮かべてお別れを告げ、桃色の球体に噛みついた。

またこの季節が巡る時、再会しましょう。

(なんだこれ)

ナカタサキ

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